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『赤線奇譚』

木村聡『赤線奇譚』ミリオン出版 2010年11月発売

 『赤線跡を歩く』シリーズで著名な木村聡氏の新刊写真集。

 タイトル通り氏が今まで撮影した赤線跡の建物、盛り場の写真集だ。

 あとがきに

 遊廓跡、赤線跡に残る貴重な建物や町並みを中心に、現在の盛り場の特異な風景、さらには旅先で目に留まった情景なども加えて、「奇譚」のタイトルに沿う構成を試みている。

 とあるが、実にその通りの写真と構成である。

 ページをめくっていくとカラフルなステンドグラスの建物、奇妙なファサード、鮮やかな豆タイルが目に飛び込んでくる。

 かつて華やかだったころの遊廓の姿が垣間見えるのだ。

 その中に時折、カメラを意識している通行人が写っている写真が何点かある。

 建物を主とする写真集ならば、通行人等をあえて入れる必要は無いだろう。

 だが氏は何点かあえて撮影したと思われる。

 じっくりと撮った歩いていく人物、また逆に急いでシャッターを切ったと思しき建物の前を通り過ぎていくネコなどの動物。

 動作のあるものだけではない。

 また廃墟と化していく建物、無人となり様々な広告が貼られた建物、古びた看板。

 それらとを今とを対比させ、さりげなく日常の中の埋もれている現在の非日常、遊廓跡、赤線跡を浮き上がらせている。

 その建物の由来、街の由来も知らぬ人々が、その前をなにも無かったかのように通り過ぎていく。

 だが、昔話が「今はむかし」と語り始めるように、元妓楼が今は知らない昔の話、遊廓時代の事を写真を通して語りかけてくるようである。

 かつて三島由紀夫は、柳田國男の『遠野物語』を「データそのものであるが、同時に文学だ」と評したという。

 恥ずかしながら三島由紀夫のひそみにならい、私はあえてこの『赤線奇譚』をこう評したい。

「記録写真であるとともに文学である」と。

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